ACV研究会の歩みと
エアクッション技術の歴史

Air Cushion Vehicle Association Japan


ACV研究会長 村尾麟一

 ACV研究会は昭和42年(1967年)に発足して以来32年になる。
その頃のACVは未だスカートもない周辺噴流型のホバークラフトであって、エアカーという呼称もあり陸用の用途にも関心が寄せられていた。ACVの草分け時代であり、三菱重工・三井造船が英国のウエストランド社・ヴィッカース社とそれぞれホーバークラフトの技術提携をして海上用の開発のスタートが切られたばかりの頃であった。 新技術の誕生に立ち会っていることを自覚して研究会を作ろうとの気運が期せずして持ち上がった。エアクッションという新技術の性格上航空・機械・造船・鉄道等の境界領域の理解がキーポイントになるという予感があったが、既成の学会組織を動かすよりまず有志が個人で勉強会をスタートさせた方が手早いと言う情勢であった。資金はないので手弁当で始めようと、これはそれ以来ほぼ一貫して貫かれた精神である。

 研究会活動の中核は機関誌”ACVの研究”の発行であり、1967年以来28巻・不定期に通算53回発行した。最初10年ぐらいは年間2・3回、最近10年ぐらいは年間1回のペースであるが刊行月は不定期で'78・'84・'95等欠号の年もある。会員の関心の対象がACVと言うハードウエアであるために、研究会活動の活性がACV産業の盛衰に依存することは避けられない。

 勉強と情報交換を目的とした研究会は当初運輸技研・鉄道技研、京大等で適宜開催したが、会員に航空学会員が多く航空学会を研究発表の場とすることが多かったので、航空宇宙学会飛行機シンポジウムの特別企画としてACVシンポジウムを開催した。1970 ー 1979年間は毎年1回、1979年以降は隔年開催で現在まで通算18回に及んでいる。

 ACV応用技術の評価もこの30年間に大きな変遷を経てきたが、そのこと自身が研究対象としての魅力でもある。

 ホーバークラフトが英国ファンボローショーでデビューして世界の注目を浴びた1960年以来最初の約10年間は、エアクッション現象の解明と改善・新用途の開発等プライマリーな問題がごろごろしていた百花斉放の時代であった。その中で国家的プロジェクトとして取り組んだ英国が1970年代に約200tのカーフェリーSR-N4をドーバー海峡に就航させて海上用ホーバークラフト開発の頂点を示した。ホーバークラフト実用化のキーテクノロジーはフレキシブルスカートであった。ソ連・フランス・日本・アメリカ・中国等も追随姿勢であった。

 日本では1960年代にホーバークラフトの試験的商業運行が開始されたが、三菱重工では英国BHCからの輸入艇SRN-6、三井造船では自社開発のMV-PP5が使用された。しかしその後三菱重工による商業運行と開発は中止され、ホーバークラフトの開発と実用艇の提供は三井造船の独壇場となって現在に至っている。

 海上旅客輸送用ホーバークラフトの実用化が世界的に進展した反面、空気浮上鉄道・エアカー・航空機離着陸装置としての用途開発は日の目を見なかった。

 一方1960年のホバークラフト開発と殆ど同時に英国でスタートした側壁型ホーバークラフト -- 後にアメリカのSES (Surface Effect Ship)と言う名称が一般的になった-- は引き続き比較的小規模のホーバーマリンによって開発量産され、我が国でも佐世保重工によって導入・生産されて商業運航がスタートした。このときスカートの耐波浪強度・軸系のトラブル等で運航が中止され、引き続くオイルショック・造船不況によって佐世保重工の開発も中止されたことは、その後のSESの発展から振り返ると不運なタイミングであった。ホーバーマリン自身も1982年に当時の旅客用SESとしては世界最大の260人乗りHMー5の建造を最後に大型化開発路線から脱落したが、これはメーカーの規模とFRP構造の限界に起因しているようである。

 SESの大型化による外海航行用高速輸送機関の実現は、1970年代のアメリカ海軍の3000tSES計画に端を発しているがテクノスーパーライナーの技術的成功によって実証されるまで紆余曲折を経て20年以上を要した。今やドイツを中心とするヨーロッパの開発計画、韓国・中国の追随など日本は追われる立場にある。

 WIGについては1960年代からソ連の軍事研究によって500トンクラスのエクラノプランが開発されてきた。ドイツも1960年代から継続的に開発を行ってきたが10人乗り程度の規模に止まっている。日本でも1960年代初期にいちはやく川崎重工がラムウイング開発の先鞭を付けたが、耐波性の限界のため中断されて以来最近の鳥取大学・久保昇三教授と三菱重工神戸の2人乗りmスカイの試作まで基礎研究レベル以上の進展はなかった。エアクッション技術は海上輸送用のほか救難・極地探査・レジャー用小型艇、産業用利用等に用途開発の試みが拡がった。

 30年に及ぶ挑戦によってエアクッション技術は成熟し、展望が拓かれた分野・未知数を抱えた分野・淘汰を受けた分野が識別されたかのように見える。しかし技術の進歩に紆余曲折は付き物であって将来を即断することは危険であろう。

 今後ACV関連技術の分野で注目すべき事は下記の3点ではないかと思われる。

  1. システムとして完成されたように見える中に残された本質的解明を必要とする問題
  2. 単独の発展で行き詰まった2つの技術を複合してブレークスルーが可能な問題
  3. 新しい用途開発

 それらの問題発見には開発経験者と研究者の緊密な交流が肝心である。そのための人脈作りはACV研究会の重要な課題の一つであろう。


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