「日大理工のPAR実験艇開発計画について」

H10.05.07   航空宇宙工学科 宮下純一

まえがき

 青山学院大学の村尾先生のお誘いもあり、平成7年度末から約30年ぶりにPARの研究に復帰しようと思い始めました。種々の状況などから、最初から一人乗りの実験艇の開発を考えていました。平成8、9年と風洞試験やラジコン模型による研究の実績も積んできましたので、今年こそ実艇製作を行いと考えています。以下に今年度までの研究の概略も含め報告します。

1 艇体構想


 この艇体については先ず学内の設備等を用いて実験が容易に行えることが第1の条件となった。そこで、艇体本体とエンジン・プロペラ及び尾翼関連は一体に作りワゴン車の天井に載せて運べるようにする、主翼と翼端版は組立式にして現地で組み立てる方式を考えた。また主翼は軽量化のため前後2本のアルミ・パイプと1枚の布の翼面で構成するように当初から考えて、風洞試験模型も、大体そのままの構造とした。
 計画した実機の1/4.1模型の概要を第1、2、3図に示す。実艇は単発機が好ましいのだが、性能上大差のある可能性もあり、最初の模型は単発機と双発機の双方を同時に製作した。また、これらの機体は風洞試験模型とラジコン模型を兼用できるように作った。

2 平成8、9年度の研究成果

[平成8年度]

  6月末頃に模型が製作できたので、以後10月頃までラジコンによる直線走行実験を行った。日大の滑走路上を直線走行させ、2台の車で伴走した。1台は速度計測用、1台は操縦用です。操縦者は機体の真後ろにいないと方向操縦が難しいようでした。 どのケースも速度が十分大きくなると、ピッチ・アップを起こして機体を散々痛めました。走行時にエレベーターを頭上げに取りすぎていることが尾輪式では分からないので、脚は尾輪式より首輪式の方が好ましく思われた。
 11月に風洞試験を行った。その結果分かったことは、単発機の性能が双発機よりそれほど劣らないこと、主翼だけでロール安定があることがだった。また、ピッチングの特性より重心を前方に移動するか尾翼面積の増加が必要なことが分かった。

  第1図  風洞試験写真 双発機、ロールあり          第2図   風洞試験写真 単発機   


 第3図  3面図 (実機はこれの4.1倍の予定)

 [平成9年度] 

 前年度の成果より単発機を本命と考え、車輪を首輪式に変更した。双発機は車輪を除去し水上用に改造した。9月に山中湖で水上実験を行ったが、その結果以下のことが分かった。
 (1) 静止時から大きな空気揚力が働くことは十分実感できた。
 (2) 静止時の喫水が現在の艇体容積ではかなりクリチカルである。
 (3) 重心が後方の場合、推力に余裕があるはずだが、後部艇体の揚抗比が悪いためあまり高速まで加速しない。 
 (4) 重心が前方の場合、高速になるのだが、艇体がピッチ・ダウンして艇首が水に突っ込む。
 (5) 静止時に波によりロール振動をするが、プロペラ先端が水に触れやすい。 
 (6) 一発停止時に同一地点で旋回し、前進不可能。
 
 また単発機の水上実験も1回だけ行ったが、それにより分かったことは、以下の通りである。
 (1) プロペラの旋回流の影響か、右翼側の揚力が大きく、水上で旋回しがちなこと。
 (2) 艇体本体に対する翼端版の高さが重要である。低すぎると高速まで加速しない。(この時翼端版は、地上試験用にタイア
    の高さ分だけ低めにセットしてあった。)

 単発機による地上直線走行試験も行った。今回は脚を首輪式に変更されていたので、重心をかなり前に置けたが、ある風速に達すると方向不安定になり、急旋回を繰り返した。原因は主脚が浮いても首脚が頭下げモーメントのため接地しているためであろう。主脚と重心位置の間隔が重要である。

 11月にフリー・フライト風洞試験と称する風洞試験を行った。これは左右の翼端版の重心位置に対応するところに金具を付け、ここから前後に水平に糸を張って模型を支持するもので、ある程度ピッチと上下の運動が自由な支持方法と見なされる。この実験では与えられた尾翼面積で重心位置を25%から35%まで、2,5%きざみで変化させて実験したが、30%より前方に重心があるなら多少の浮揚高度があっても一応安定と分かった。
 この実験法のメリットは通常のように、風洞試験結果を解析してから重心位置を決める方法は、卒業研究には一般には不適なことである。これにはPARの空力特性が高度・パワー状態で大きく変化し解析作業が大変なことが関係している。
また、動的な状態での安定をも含めて素早く知る為には、PARの研究にはこのフリー・フライト風洞試験法は不可欠とも言えるかもしれない。Uコントロールを用いた実験も行ったが、この方法も縦安定の様子を知るには非常に有益である。

3 平成10年度計画

 以上の成果をふまえて今年度から試作に入りつつある。学生の製作する部分もあるので、どこまで進めるかは不明であるが、一応水に浮かべるところまでは是非行きたいと思っている。重量見積もり、エンジン選定などは現在作業中であり、詳細は未定であるが、大体下記の仕様の予定である。

 形状関係: 従来の模型の4.1倍
 全備重量: 250Kgから300Kg
 エンジン : 30から40馬力
 プロペラ : 直径 1mから1.2m 、4翅

 構造関係について若干説明すると、全般は大体当初の構想通りである。つまり艇体、動力関係、尾翼関係はワゴン車の天井に載せて運び、主翼、端板は取り外し式で現地で組み立てる方式である。主翼の桁は前後2本のアルミ・パイプのみで翼面は布1枚とする。 模型と形状的に変わるところは垂直尾翼で、艇体側面に2枚取り付ける予定である。水平尾翼は縦安定の余裕を持たせるために主翼のフル・スパン近くまで広げようと思っている。 艇体の構造は軽量化のためアルミ外板で出来ないか現在調査中である。 以上の設計・製作を進めながら、平行して風洞試験・ラジコン試験による安定性の確認作業も進める予定である。

4 あとがき

 筆者の川崎重工時代のKAG-3の開発経験などからすると、WIG・PARのように水上を走行する物は実物を早く作り、実物の試験を通して改良して行くというプロセスが不可欠である。これが実物の試作を急いでいる理由である。この点、航空機の開発とは大幅に異なり単車やボートの開発に近い物と思っています。最後に研究に当たり色々手助けと御助言を戴いた青山学院大学の村尾麟一先生に感謝の意を表したい。